「緑川行燈」俳句

俳句には、豊かな日本語でしか表現できない

 日本人の季節感、自然への畏れや憧れ、

生活や人生への愛情といった

 日本人本来の心の在り方や感じ方が、

長い年月をかけて、流れ込み、降り積もっています。

 

俳句には、現代の日本人にもう一度、

大切なことや本来の生き方を思い起こさせてくれる、

そんな力があるのではないでしょうか。

 

「緑川行燈」俳句は

これまでの多くの俳人たちに詠まれてきた

日本の故郷の美しい自然の風景、

日本人の懐かしい慎ましい生活、

人生や自然や生活への愛情と豊かな感性を

思い出させてくれる俳句をご紹介していくことで

 

環境破壊や気候変動、生活スタイルや社会の価値観の変化から

 少しずつ消えつつある「俳句の季語の世界」の残っている、

しかし同様に、少しずつ消えつつある緑川流域の故郷から

大切なことを見失ってしまった現代の日本の社会へ

最後のメッセージを伝えていくための企画です。

 

企画運営者の好きな俳句を毎月3句追加掲載しています。日本人の心に寄り添う、過去から現代の有名な俳人たちに詠まれた名句ばかりです。

「心の旅」ページの緑川流域の美しい風景や懐かしい生活を写した素敵な写真のスライドショーと合わせて、素敵な心の旅のお時間をお過ごしください。

また、弊社では、全くの素人の方でも、誰でも郵送で気軽に参加できる俳句会を運営しています。「奥の菊道」俳句会:okunokikumichi.com

 

旅に病んで夢は枯野をかけ廻る     芭 蕉

 

遠山に日の当りたる枯野かな      高浜虚子

 

菜の花や月は東に日は西に       蕪 村

 

外にも出よ触るるばかりに春の月    中村汀女

 

蹴あげたる毬のごとくに春の月     富安風生

 

春風や闘志いだきて丘に立つ      高浜虚子

 

絵巻物拡げゆく如春の山        星野立子

 

遅き日のつもりて遠き昔かな      蕪 村

 

凧ひとつ浮ぶ小さな村の上       飯田龍太

 

雪とけて村一ぱいの子どもかな     一 茶

 

野遊びのひとりひとりに母のこゑ    橋本榮治

 

銀杏ちる兄が駈ければ妹も       安住敦

 

鬼ごつこ銀杏を踏みつかまりぬ     加藤瑠璃子

 

少年の見遣るは少女鳥雲に       中村草田男

 

遠足の女教師の手に触れたがる     山口誓子

 

算術の少年しのび泣けり夏       西東山鬼

 

匙なめて童たのしも夏氷        山口誓子

 

先生はふるさとの山風薫る       日野草城

 

羽子板の重きが嬉し突かで立つ     長谷川かな女

 

凧抱いたなりですやすや寝たりけり   一茶

 

子にみやげなき秋の夜の肩ぐるま    能村登四郎

  

ままごとの飯もおさいも土筆かな    星野立子

 

あはれ子の夜寒の床の引けば寄る    中村汀女

 

咳の子のなぞなぞあそびきりもなや   中村汀女

 

まつさきに子のものを干し雪間草    友岡子郷

 

膝に来て模様に満ちて晴着の子     中村草田男

 

卒業の吾子の矢絣飛ぶごとく      藤田湘子

 

秋の雲立志伝みな家を捨つ       上田五千石

 

貝寄風に乗りて帰郷の船迅し      中村草田男

 

栗飯を子が食ひ散らす散らさせよ    石川桂朗

 

雨ごもり筍飯を夜は炊けよ       水原秋櫻子

 

大根が一番うまし牡丹鍋        右城暮石

 

炊き上げてうすき緑や嫁菜飯      杉田久女

 

豆飯食ふ舌にのせ舌に力入れ      石田波郷

 

新茶汲むや終りの雫汲みわけて     杉田久女

 

新海苔の艶はなやげる封を切る     久保田万太郎

 

美しき緑走れり夏料理         星野立子

 

そら豆はまことに青き味したり     細見綾子

 

新走その一掬の一引を         稲畑汀子

 

わが死後へわが飲む梅酒遺したし    石田波郷

 

ゆで玉子むけばかがやく花曇      中村汀女

 

平凡な日々のある日のきのこ飯     日野草城

 

瓜揉むやふたりのための塩加減     黒田杏子

 

煮凝へともに箸さす女夫かな      召 波

 

夕顔の一つの花に夫婦かな       富安風生

 

芋食ふや大口あいていとし妻      飯田蛇笏

 

もてなしの白魚飯も母心        高野素十

 

母訪へば母が菜飯を炊きくれぬ     星野麥丘人

 

皸をかくして母の夜伽かな       一 茶

 

秋の灯にひらがなばかり母の文     倉田紘文

 

母の忌や其の日の如く春時雨      富安風生

 

父母の亡き裏口開いて枯木山      飯田龍太

 

死にたれば人来て大根煮きはじむ    下村槐太

 

天地の間にほろと時雨かな       高浜虚子

 

世にふるもさらに時雨の宿りかな    宗 祇

 

散る桜残る桜も散る桜         良 寛

 

さまざまの事おもひ出す桜かな     芭 蕉

 

まさをなる空よりしだれざくらかな   富安風生

 

咲き満ちてこぼるる花もなかりけり   高浜虚子

 

咲き満ちて花の遅速のなかりけり    稲畑汀子

 

かの世へと君をつつみて花吹雪     桂信子

 

今朝引きし鶴にまじりて行きたるか   大峯あきら

 

秋深むひと日ひと日を飯たいて     岡本眸

 

秋深し人に祈りの深ければ       稲畑汀子

 

悲しみの七日々々に秋深み       本田豊子

 

大寒の埃の如く人死ぬる        高浜虚子

 

念力のゆるめば死ぬる大暑かな     村上鬼城   

 

天高く畑打つ人や奥吉野        山口青邨

 

大根蒔く戦に負けし貧しさに      山口青邨

 

山茶花やいくさに敗れたる国の     日野草城

 

大和また新たなる国田を鋤けば     山口誓子

 

種蒔ける者の足あと洽しや       中村草田男

 

ものの種にぎればいのちひしめける   日野草城

 

生き変はり死にかはりして打つ田かな  村上鬼城

 

歩み来し人麦踏をはじめけり      高野素十

 

づかづかと来て踊子にささやける    高野素十

 

てのひらをかへせばすすむ踊りかな   阿波野青畝

 

祭笛吹くとき男佳かりける       橋本多佳子

 

流燈や一つにはかにさかのぼる     飯田蛇笏

 

水かけてすぐ湯気となる裸押し     能村登四郎

 

どんど火に掌が花びらの子供たち    能村登四郎

 

傍らにをさな子眠る飾売        中嶋鬼谷

 

牡丹雪その夜の妻のにほふかな     石田波郷

 

除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり     森澄雄

 

ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜    桂信子

 

七夕や髪濡れしまま人に逢ふ      橋本多佳子

 

別れきし荒き息もて萩を折る      桂信子

 

いなびかりひとと逢ひきし四肢てらす  桂信子

 

雪はげし抱かれて息のつまりしこと   橋本多佳子

 

羅や人悲します恋をして        鈴木真砂女

 

短夜や空とわかるゝ海の色       几 董

  

此秋は何で年寄る雲に鳥        芭 蕉

 

身にしむや亡妻の櫛を閨に踏む     蕪 村

 

此の秋は膝に子のない月見かな     鬼 貫

 

妻亡くて道に出てをり春の暮      森澄雄

 

夏草や兵どもが夢の跡         芭 蕉

 

名月や畳の上に松の影         其 角

 

月さして一間の家でありにけり     村上鬼城

 

生涯にかかる良夜の幾度か       福田蓼汀

 

鈴虫のいつか遠のく眠りかな      阿部みどり女

 

春眠の覚めつゝありて雨の音      星野立子

 

行灯をとぼさず春を惜しみけり     几 董

 

大紅葉燃え上がらんとしつゝあり    高浜虚子

 

一の橋二の橋ほたるふぶきけり     黒田杏子

 

白馬駆け下りるごとくに滝の水     鷹羽狩行

 

わが山河まだ見尽さず花辛夷      相馬遷子

 

誰が触るることも宥さず牡丹の芽    安住敦

 

人の世に花を絶やさず帰り花      鷹羽狩行

 

菫程な小さき人に生れたし       夏目漱石

 

ちりて後おもかげにたつぼたん哉    蕪 村

 

冬菊のまとふはおのがひかりのみ    水原秋櫻子

 

雉子の眸のかうかうとして売られけり  加藤楸邨

 

闘鶏の眼つむれて飼はれけり      村上鬼城

 

金粉をこぼして火蛾やすさまじき    松本たかし

 

冬蜂の死にどころなく歩きけり     村上鬼城

 

ふるさとを野火に追はるるごとく出でし 鈴木真砂女

      

花散るや伽藍の枢落し行く       凡 兆

 

春雨に呼ぶ子をもたず立ち眺む     桂信子

 

柚子湯沁む無数の傷のあるごとく    岡本眸

 

湯豆腐やいのちのはてのうすあかり   久保田万太郎

 

妻は我を我は枯木を見つつ暮れぬ    加藤楸邨

 

細雪妻に言葉を待たれをり       石田波郷

 

雲の峰一人の家を一人発ち       岡本眸

 

雪嶺のひとたび暮れて顕はるる     森澄雄

 

初空の藍と茜と満たしあふ       山口青邨

 

九十の端を忘れ春を待つ        阿部みどり女

 

九十年生きし晴着の裾捌        鈴木真砂女

 

今生のいまが倖せ衣被         鈴木真砂女

 

秋晴の何処かに杖を忘れけり      松本たかし

 

玉の如き小春日和を授かりし      松本たかし

 

生きてゐることが感謝の雪の朝     稲畑汀子

 

再びは生れ来ぬ世か冬銀河       細見綾子

 

地震の国に生きてゑんどう剝いてをり  桂信子

 

旅人と我が名呼ばれん初時雨      芭 蕉

 

ねむりても旅の花火の胸にひらく    大野林火

 

ほしいまゝ旅したまひき西行忌     石田波郷

 

げんげ田のうつくしき旅つづけけり   久保田万太郎

 

桃食うて煙草を喫うて一人旅      星野立子

 

山寺や涅槃図かけて僧一人       星野立子

 

山寺や五色にあまる花御堂       蓼 太

 

人はみな旅せむ心鳥渡る        石田波郷

 

野ざらしを心に風のしむ身かな     芭 蕉

 

此道や行く人なしに秋の暮       芭 蕉

 

かぎりある命のひまや秋のくれ     蕪 村

 

秋の暮水のやうなる酒二合       村上鬼城

  

朴散華即ちしれぬ行方かな       川端茅舎

 

糸瓜咲て痰のつまりし仏かな      正岡子規

  

雁やのこるものみな美しき       石田波郷

 

露の世は露の世ながらさりながら    一 茶

 

白梅に明くる夜ばかりとなりにけり   蕪 村

 

病雁の夜さむに落ちて旅ね哉      芭 蕉